糖尿病合併症の発症・進行を防ぎましょう(後)

2021年11月01日

利根中央病院
糖尿病内科科長
荒木修

今回は先月号に引き続き、生活習慣病の1つである糖尿病の合併症について掲載します。糖尿病の悪い状態が長く続くと全身にさまざまな慢性合併症が起こってきます。

細い血管の合併症とは?

糖尿病に特有の合併症で、血糖コントロールが悪いほど、また糖尿病発症後の期間が長いほど起こりやすくなります。これらの細小血管合併症は、早期で軽症であれば血糖コントロールを良くすることで改善が見込めますが、ある程度進行してしまうと血糖コントロールが良好であっても必ずしも改善しません。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症は早期発見と治療が大切なので、少なくとも年一回、場合によってはより頻回に眼科を受診し、網膜症の程度を検査しましょう。網膜のむくみやもろい血管が増えてくる増殖前~増殖網膜症となると進行による視力低下を食い止めるためにレーザー光線や手術による治療をおこないますが、基本的には血糖コントロールによる発症と進行の予防が大切です。網膜の中心部にむくみが生じる黄斑症(黄斑浮腫)や緑内障、白内障も視力低下につながるので、定期的な眼科受診を心がけましょう。

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症では血液を濾過する細い血管の塊である腎糸球体が高血糖により傷むことによって、尿中にたんぱく質が漏れ出るなど、腎臓の働きが悪くなります。糖尿病性腎症の進行度は、尿中に漏れ出るたんぱく質(主にアルブミン)の量と腎臓の働き(糸球体の血液濾過量)により1期から5期までに分けられます。糖尿病性腎症の進行にもっとも大きく影響するのは血糖コントロールですが、高血圧も腎症進行の大きな要因となります。食事におけるたんぱく質や塩分の摂りすぎや喫煙もまた悪化原因となるので注意しましょう。当院通院中の患者様には少なくとも年一回、尿中のアルブミン値と糸球体の血液濾過量を測定して腎症の病期を確認するとともに、腎症2期以上に進行している方を対象に、腎症が悪化して透析の治療が必要となる様なことがないよう、糖尿病性腎症透析予防の療養指導を行っていますので、主治医の先生と相談し積極的に利用しましょう。

糖尿病性神経障害

糖尿病性神経障害では高血糖が神経自体を変性させるほか、神経周囲の細い血管を傷めて神経の働きが悪くなります。手足の感覚や運動をつかさどる神経における「末梢神経障害」と、胃腸や心臓といった内臓の働きを調節している神経における「自律神経障害」、その他の神経の障害があり、全身にさまざまな症状を引き起こします(図1)。末梢神経障害が悪化すると感覚が麻痺してやけどや傷の痛みを感じなくなってしまうことがあり、傷の気づきや手当てが遅れ、足潰瘍や壊疽、切断まで進んでしまうこともあり注意が必要です。自律神経障害では胃もたれ、がんこな便秘、下痢、立ちくらみ、勃起障害(ED)などさまざまな症状が起こります。とくに心臓では心筋梗塞などが起こっても胸痛などの症状が出ない場合もあり、知らずしらずのうちに心臓が傷んでいくことがあり注意が必要です。

これらの合併症は糖尿病の治療をきっちりとしていれば、最小限にくい止めることができます。すでに合併症が出ていても進行をくい止め、ほかの合併症が出ないようにするために継続して受診し、正しい治療を続けましょう。

図1:糖尿病の合併症は全身に出る
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p25, 南江堂, 2020)
図1:糖尿病の合併症は全身に出る
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p25, 南江堂, 2020)

感染症と糖尿病

糖尿病の高血糖状態が続いていると、細菌、力ビ、ウイルスなど微生物による病気(感染症)にかかりやすく、また治りにくくなります。気管支炎、肺炎、結核、胆嚢炎、腸炎、膀胱炎、腎孟腎炎、インフルエンザなどにかかりやすく、時に重症になることがあります。歯ぐきの感染症である歯周病にもかかりやすく治りにくいことから、毎日の歯みがきのみではなく、定期的に歯科の受診もしましょう。

認知症と糖尿病

糖尿病があると認知症が約2倍発症し、また進行しやすくなります。認知症になると糖尿病の療養行動がむずかしくなり、より糖尿病の悪化を招く悪循環に陥りやすくなります。糖尿病の血糖コントロールをしっかりおこなうと同時に、もうひとつの危険因子である重症の低血糖を避けて認知症発症を予防し、また早期発見と治療により進行をくい止めることが大切です。

足病変とフットケア

糖尿病では、さまざまな要因により足の病気(足病変)を起こしやすくなります。まず、神経障害の合併のために足の感覚が鈍くなり、たこや傷が気づかないうちに進行したりします。また、足の血管の動脈硬化のため足の先まで血液が十分に流れなくなり、酸素や栄養分などが不足します。微生物に対する抵抗力が弱まり、足の傷の感染が治りにくく、悪化しやすくなります。このため、少しの傷や水虫(白癬)などの足の病気が重症化しやすく、適切な手当てが遅れると、皮膚の潰瘍や壊疽まで進むことがあります(図2)。これら足病変の予防のためには、日頃から足をよく観察して、小さな変化に早く気づくこと、足の手入れをこまめにするフットケアが大切です。当院では糖尿病足病変の発症、再発、進行の予防を目的としたフットケア外来を木曜日に実施しています。フットケアの知識や処置の技術を習得した専任の看護師が足の観察、処置、自己管理指導をおこないますので、積極的に利用しましょう。

図2:糖尿病による足の病気
左:血流障害、神経障害、感染症による足壊疽
右:入浴洗髪中にお湯の滴下に気づかずできた火傷による水疱(すいほう)
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p29, 南江堂, 2020)
図2:糖尿病による足の病気
左:血流障害、神経障害、感染症による足壊疽
右:入浴洗髪中にお湯の滴下に気づかずできた火傷による水疱(すいほう)
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p29, 南江堂, 2020)

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