冬場に起きやすい循環器の病気

2016年12月01日

利根中央病院 循環器内科部長
近藤 誠

冬場に循環器疾患が多いということはよく知られていることで、これは世界的にも認められている現象です。その中でも急性心不全や急性心筋梗塞、急性大動脈解離といった生命に関わる疾患が増加する傾向にあります。
今回は冬場に多い循環器の疾患について、その特徴・予防法などについて考えてみましょう。

高齢になればなるほど寒冷期の影響を受けやすい。

厚生省が発表した死亡統計から、月別の死亡数、その原因疾患、性別、年齢別などについてまとめた報告を検討すると、比較的若年層の40歳代~90歳以上の高齢者まで、どの年齢層においても、男女ともに5月~8月の暖かい季節は心疾患のリスクが少なく、12月~2月の冬場はリスクが上昇しています(図1・図2)。そして若年層に比べ、高齢になればなるほど冬場の心疾患のピークは明らかで、季節が強く影響していることが分かります。

年齢階級別の状況(男、女)

  • 図1
  • 図2

冬場に影響を与える因子

冬場にさまざまな心血管疾患発症を引き起こす原因として血圧との関係が指摘されています。血圧は一日中同じ値を保っているわけではなく、さまざまな要因で上がったり下がったりしています。特に、気温による血圧の変動は1~2月に大きく、寒冷刺激により血管が収縮し、血圧があがることや冬季の塩分摂取量の増加が大きく影響していると考えられます。高齢者や男性、肥満の人では若年者や女性で血圧の変動が大きいと言われ、気温だけでなく、日照時間の関与や運動量、ストレスなどの影響も指摘されています。
また、冬場は身体を動かす機会が減り、急激な冷えや気温差により、中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝の異常も起こりやすくなります。
そのほか寒冷刺激により交感神経が緊張すると全身の血管が収縮して心臓の負担を増大させます。すると、心臓に血液を供給している冠動脈の血管抵抗も上昇し、冠動脈の攣(れん)縮(しゅく)(発作的に動脈がけいれんして、狭窄や閉塞を起こすこと)が引き起こされると、冠動脈プラーク(血管内膜の動脈硬化による部分的な肥厚をプラークといいます)が破綻しやすくなると言われています。

冬場に多い循環器疾患とその症状

急性(きゅうせい)心筋(しんきん)梗塞(こうそく)
症状は、胸部圧迫感やしめつけ、左前胸部痛に冷汗を伴います。奥歯や顎、左上肢にまで痛みが広がることが多く、20分以上症状が持続します。また同様の症状が一旦消失するものの、繰り返し出現する場合には急性心筋梗塞の前兆の場合があります。
慢性(まんせい)心(しん)不全増(ふぜんぞう)悪(あく)、急性(きゅうせい)心(しん)不全(ふぜん)
症状は、体を動かしているときや夜間横になると息苦しい、咳が出る、ピンク色の痰が出る、足や顔がむくむなどです。徐々に増悪することもありますが、呼吸困難が急激に進行することもあります。
急性(きゅうせい)大動脈(だいどうみゃく)解離(かいり)
発症は血圧の上昇と関連していることが多く、突然生じます。症状は、強い背部痛が多く、痛みは、背部から胸部や腰部に移動することがあります。血流障害が合併すると、一過性に意識を失ったり、上肢や下肢の冷感や脱力、腹痛が生じることもあります。
不整脈(ふせいみゃく)(発作性心房細動(ほっさせいしんぼうさいどう))
症状は、動悸やめまい、息苦しさなどです。長時間持続すると治りにくくなり、脳梗塞のリスクが増加すると言われています。

対処方法

寒冷が生命に関わる循環器疾患の増加につながるため、冬季は注意が必要です。特に高齢者ではその影響が大きいため、高齢者世帯や、高齢者を抱える世帯では、寒冷に対する対策をしましょう。
具体的には、トイレや洗面所、浴室、寝室など、室内でも10℃以上の温度変化が大きいことが予想される場所で適切な暖房器具の使用を心がけること、外出時にはコートや手袋など、防寒着の着用を心がけることなどです。
そして万が一、今までに感じたことのない強い胸痛が出現し20分以上持続した場合や、呼吸困難感が強い場合、呼吸困難の症状が進行して悪化する場合、また今までに経験したことのない強い背部痛が出現した場合などには、迷わず救急車を要請することをお勧めします。

(参考)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/sinno05/index.html
心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告 平成16年
死亡月別にみた心疾患-脳血管疾患死亡 
平成16年の月別1日平均死亡数

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