高齢者に多い疾患~関節や脊椎の痛み~

2016年03月01日

利根中央病院
整形外科部長
須藤 執道

日本人の平均寿命は男性80.5歳(世界で3位)、女性86.8歳(世界で1位)で戦後から30年以上延びています。しかし、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されない期間)は男性71.2歳、女性74.2歳で平均寿命と比べると男性では約9年、女性では約12年もの差があります。今回は、その健康寿命に関わる代表的な関節・脊椎疾患を取り上げます。

肩腱板断裂(かたけんばんだんれつ)

図1.肩腱板断裂

加齢による変性や外傷によって肩のすじ(腱)が切れてしまったことによって起こる疾患です。以前は五十肩(肩関節周囲炎)と混同されることが多かったようです。
症状は五十肩と同じで肩が痛みます(時には肘や手首まで痛むこともあります)。50歳以降の方に多く、夜間痛を伴います。肩を動かすと引っかかる感じやグリグリ音がすることもあります。重症の場合には、手を挙げることが困難となります。
MRI 検査では、腱の断裂を認めます(図1の○内)。治療としては、鎮痛剤や外用剤を使用して痛みを緩和します。
ヒアルロン酸の関節内注射やリハビリテーションも有効です。

頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)

頚椎(首の骨)の変形や靱帯の肥厚により、頚部脊柱管(首の神経の通り道)が狭くなって起こる疾患です。
症状は手指のシビレと歩行障害で、50歳以降の方に多くみられます。手指の細かい作業(箸を持つ、字を書く、財布から小銭を取るなど)が難しくなります。
MRI 検査では、頚髄(首の神経)の変形を認めます。
治療としては、内服薬を使用してシビレなどの症状を緩和します。頚椎カラーの使用やリハビリテーションも有効です。

変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)

股関節の軟骨がすり減ってしまって起こる疾患です。症状は股関節の痛みで、40~50歳代の女性に多く、症状が進行すると跛行(痛む下肢を引きずるようにして歩く)を生じます。治療としては、鎮痛剤や外用剤を使用して痛みを緩和します。股関節周囲の筋力強化などのリハビリテーションも有効です。

変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)

膝の軟骨がすり減ってしまって起こる疾患です。残念ながら、すり減ってしまった軟骨は再生しません。症状は膝の痛みで、50~60歳代の女性に多く、正座や和式トイレの使用が困難となります。膝に水がたまることもあります。
治療としては、鎮痛剤や外用剤を使用して痛みを緩和します。ヒアルロン酸の関節内注射や膝関節周囲の筋力強化などのリハビリテーションも有効です。

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

図2.間欠性跛行(かんせつせいはこう)
(大日本住友製薬のホームページより抜粋)

腰椎(腰の骨)の変形や靱帯の肥厚により、腰部脊柱管(腰の神経の通り道)が狭くなって起こる疾患です。
症状は腰痛や両下肢のシビレ・痛みで、50歳以降の方に多くみられます。足底部の異常感覚(砂利の上を歩いているような感じや足の裏に紙が貼りついているような感じなど)や間欠性(かんけつせい)跛行(はこう)(図2)が特徴的です。
MRI 検査では、脊柱管の狭窄を認めます。治療としては、内服薬を使用してシビレなどの症状を緩和します。コルセットの使用やリハビリテーションも有効です。

外反母趾(がいはんぼし)

足底筋(足の裏の筋肉)の筋力低下や、もともとの扁平足が原因で起こる疾患です。50歳代の女性に多く、足の親指の付け根が痛み、変形を伴います。
治療としては、鎮痛剤や外用剤を使用して痛みを緩和します。足底筋の筋力強化などのリハビリテーションや装具(外反母趾装具や足底板)の使用も有効です。

症状が改善しない場合には

図3.人工膝関節

以上のような治療をしても症状の改善がなく、普段の生活にも支障がある場合には手術を行うこともあります。
図3は人工膝関節置換術後のレントゲン写真です。
関節や脊椎の痛みを完全に取り去ることは困難ですが、一人で悩まずに利根中央病院の整形外科にご相談ください。

関節・脊椎疾患の予防法は

①適度な運動
無理のない範囲での20~30分間程度のウォーキングや筋力トレーニング、関節や筋肉の柔軟性を保つストレッチなどが有効です。
②バランスの良い食事
肥満を防ぎ、適正体重を維持することが重要です。生活習慣病や骨粗鬆症の予防にもなります。
③禁煙、過度のアルコール摂取を控える
喫煙は関節・脊椎疾患による症状を増悪させる可能性があります。過度のアルコール摂取も同様です。

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