在宅医療とは

2016年02月01日

利根中央診療所
医師
小林 正人

病院に通院出来ない患者のために、医師や看護師が患者の家を訪問して、医療を提供することを在宅医療といいます。癌末期の患者の在宅での看取りも在宅医療に含まれます。
国は今後、病院中心医療から在宅医療への転換を進める方針です。その為、在宅医療の需要は、今後も増え続けると考えられます。このコラムは、在宅医療について説明し、在宅医療に対する理解を深め、皆さまの不安を軽減する目的で書いています。

在宅医療の考え

在宅医療は在宅ケアとも言われます。ケアとは、キュア(治す)に対する考えであり、病気は治らないが生活の世話や援助をしていこうという言葉です。今までの医療は、キュアに重点を置いていたためケアがおろそかになっていました。在宅医療で求められるのはこのケアです。
病院では、患者中心の医療と言いながら、実際は医療従事者中心の医療を行っている所が少なくありません。在宅医療は、患者の家にお邪魔し医療を行います。あくまで主人公は患者です。就寝時間も自由ですし、酒を飲んでも構いません。実際、在宅患者の表情は、病院にいるときよりも生き生きしています。
また、多くの高齢男性患者は病院が嫌いです。逆に、高齢女性患者は病院に良く適応し、周りの患者ともすぐ友達になれる印象があります。つまり高齢男性患者こそ、なるべく在宅医療で診ていくほうが望ましいのです。

介護力とは

在宅医療の成功は介護力にかかっています。介護力とは、図1の様に様々な要素の和で成り立っています。最近は、老老介護、認認介護などが増えており、介護力低下のため在宅医療が難しくなる例も増えています。ここで、介護力を強化しケアプランを作成するケアマネージャーの役割が重要になってきます。在宅医療では、その他にもホームヘルパー、理学療法士、作業療法士、薬剤師、栄養士など多職種の人たちの協力が必要です。近所の友人知人の支援も重要です。多職種チームで協力をして、介護力を高める必要があります。決して、医師のみが在宅医療を担っているわけではありません。

緩和ケアとは

緩和ケアとは、主に末期癌患者の苦痛緩和の事を言います。以前はターミナルケア、終末期ケアなどと言われていました。苦痛にもいろいろあります。身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛(生きる意味を見失うことによる苦痛)などです。要するに、体の痛みを取るだけでなく、患者の様々な悩みに対処しなければならないと言うことです。
しかし、患者が自分の苦痛を言葉で表現しなければ、我々医療従事者は対処できません。どんな小さなことでもいいから、言葉で表現してもらうこと。これが緩和ケアでは重要になります。我慢強いことは、緩和ケアでは時には障害になることもあります。
患者には、「生きていてよかった」と思って頂きたい。これが、私たち医療従事者の思いです。

最後に

私は、日本とアメリカで医師として働きました。そこで、感じた事を書きたいと思います。
アメリカの患者は、本当に良く質問をします。納得するまで質問します。患者だけではありません。アメリカの医師も、カンファレンスでは多くの質問をしていました。アメリカでは、質問をしない医師は評価が下がります。
日本の患者は、余り質問をしません。もっともっと質問をして下さい。我々医師も質問されることで勉強になるのです。いい緊張感も生まれます。
アメリカで私の指導医が言った言葉が、非常に印象に残っています。
「くだらない質問なんてない。くだらない答えはあるけど。」
医療従事者だけでは、いい医療は作れません。これまで、日本の医療はお任せ医療の傾向がありました。これからは、患者も自分で考え、自分で判断する事が必要になってきます。その為にも、疑問があったらどんどん質問しましょう。
超高齢化社会と言う、今まで経験したことのない時代に入った日本。しかし、私は悲観していません。みんなで知恵を出し合えば、必ず解決方法は見つかるはずです。私も微力ながら、利根沼田の医療を良くするために頑張りたいと思います。
利根中央診療所でも、積極的に在宅医療を行っています。利根中央診療所では、昨年4月から7人の看取りをしました。全員、癌の末期でした。皆さん苦しむ事も無く、穏やかに最後を迎えられました。
往診先に、男性の胃瘻患者がいます。この方は、若いころかなりお酒を飲んでいたようです。口からお酒が飲めないなら、胃瘻からお酒を入れれば良いと思い、お酒を胃瘻から入れてみました。患者は、気持ち良かったと言ってくれました。このように、病院では出来ない事も在宅では出来るのです。
在宅医療について疑問、質問があれば是非利根中央診療所にいらしてください。これからもよろしくお願い致します。

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