有病者歯科診療科

はじめに

さまざまな合併症(お口の病気以外の全身の病気)をお持ちの方のための診療科のご案内です。当科では、地域の開業医の先生方、病院や介護・福祉施設の先生方と緊密に連携し、精度の高い全身病態の把握と的確な診断・治療方針のご提案を行います。事前に主治医の先生から紹介状を書いて頂き持参の上当科を受診されると治療までの過程がスムーズに進みます。お薬を服用中の方は、必ず薬剤情報提供書(薬局や病院・医院で渡されるお薬の説明書)を持参の上、当科を受診下さい。利用者さまのプライバシーは必ず守られます。
合併症の種類は多数ありますが、その中でも特に代表的な病態に関して現在の対応状況をまとめてみましたのでご覧下さい。

対応状況

1.高血圧症、低血圧症の方へ

必ず薬剤情報提供書を持参の上、受診下さい。当科で改めて血圧を測定し、受診当日の状態を平常血圧を参考に客観的に診断いたします。治療がどの内容でどこまで可能なのかを歯科口腔外科の立場からご説明いたします。
最高血圧180mmHg以上、最低血圧110mmHg以上の場合にはより慎重な全身管理を行います。特にβ遮断薬を服用されている患者さまは、歯科麻酔との相互作用で血圧上昇をきたすことがありますので全身監視モニターの装着下、慎重に管理しながら治療を行います。当科で通常使用しているアドレナリン含有麻酔薬でもカートリッジ2本までは心血管系にほとんど影響を及ぼしません。また、治療時の疼痛が血圧上昇の原因となる事があるため、麻酔の量を少なくする事よりも、きちんと麻酔を効かせた状態で、痛みなく治療を行う事の方が大切です。

2.「血液サラサラの薬」を服用中の方へ

必ず薬剤情報提供書を持参の上、受診下さい。服用薬剤の種類によって対応は異なります。歯医者にかかるからといって、自分勝手に薬剤を中止しないで下さい。歯を抜いたり、外科手術を行うことが事前に分かっていても主治医(かかりつけの医科の先生)から処方された薬剤は歯科受診とは関係なく通常通り服用して受診して下さい。休薬や減量の必要性は、検査値、服用薬剤の種類、必要な歯科治療の侵襲度から当科の担当歯科医師が総合的に判断し改めてこちらからご説明いたします。

3.「骨粗鬆症の薬」を服用中の方へ

必ず薬剤情報提供書を持参の上、受診下さい。服用薬剤の種類によって対応は異なります。何年間服用しているのかという服用期間の情報も大切です。例えば、服用し始めて3年6ヶ月というように具体的に服用期間をご自分で確認し、私たちスタッフにお申し出下さい。
私たちは、日本口腔外科学会が発行するガイドライン(ビスフォスフォネート系薬剤と顎骨壊死:臨床病態と治療ガイドライン 2008)に従って診察いたします。歯医者にかかるからといって、自分勝手に薬剤を中止しないで下さい。

4.糖尿病の方へ

糖尿病手帳を必ず持参下さい。糖尿病の方は好中球の機能が落ちるので細菌感染への抵抗力が低下し感染しやすくなっています。したがって糖尿病でない人よりも歯周病 になりやすくかつ進行が早くなります。また、同じ理由によりその他の口腔内の炎症性の疾患を引き起こしやすく、進行も早く治りにくいです。唾液中のグルコース濃度の上昇や唾液の減少により虫歯が多発します。
直近のHbA1C(グリコヘモグロビン)の数値を見て歯科治療の内容を判断します。HbA1cは過去1~2ヶ月の血糖値と相関しており、HbA1c≧6.5%が糖尿病の基準です。
高値だから治療できない、低値だから気にする必要がないという単純な考え方は間違いです。必要な歯科治療の内容と侵襲度、炎症の程度、感染所見を歯科口腔外科の立場から総合的に評価し、HbA1Cだけでなく、他の検査所見の数値や服用薬剤の内容と照らし合わせ処置方針を立案してゆきます。
また、歯周病が進み、口全体に炎症が広がった状態を放置していると、感染した歯周組織から「TNF-α」(腫瘍壊死因子)という物質が分泌されます。これがインスリンの働きを低下させて血糖を上げ糖尿病を発症させたり悪化させたりします。糖尿病の方は合併症がない方以上に歯周病治療に力を入れる必要があります。
治療中に発作(低血糖発作)がおきることがあります。この場合糖分摂取により改善しますので飴やジュースなどをお持ちになられたほうが望ましいでしょう。当院には緊急用に経口糖飲料、静脈投与用グルコースを準備していますのでご安心下さい。
また予約の時間帯は発作がおきにくい食後の時間帯(例:朝一番、昼一番)でのご予約をお願いいたします。

5.薬剤アレルギー(歯科麻酔薬以外)の既往がある方へ

具体的な薬の名前を特定した上でないと正確な判断はできません。薬剤アレルギーと診断された医療機関でアレルギーカードや診療情報提供書等の紹介状を書いて頂いた上で受診される事が理想です。
原因薬剤が特定、または推定できた際には別の構造式のお薬を処方いたします。
また、症状が出た当時の臨床経過を問診して総合的に医学的な診断を行います。
アレルギー反応は、I~IV型に分類されており、薬剤アレルギーの機序もこれに従って分類されます。当科では、紹介状や問診によりⅠ型~Ⅳ型までの分類診断をした上で具体的な歯科治療の提案を行います。
ほとんどの場合、お薬そのものに原因があるのではなく、寝不足、疲労などの体力低下が引き金と考えられるものがほとんどですが、まれに真の薬剤アレルギーもありますので、慎重に問診を行います。

6.歯科麻酔アレルギーの既往がある方へ

「麻酔をした後動悸がした」、「麻酔をした後気分が悪くなった」、「麻酔をした後気を失った」、「(そもそも)麻酔が合わない」という既往の方のほとんどは歯科麻酔アレルギーではありません。
真の歯科麻酔アレルギーは、歯科麻酔アレルギーであると患者さんから申告されたうちの1%未満であるといわれています。また、歯科麻酔アレルギーの報告の多くは、防腐剤であるパラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)が原因とされています。当科ではパラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)を含んでいない歯科麻酔薬を使用していますのでご安心下さい。
麻酔アレルギーがあるのなら、麻酔後、顔面や、全身の皮膚(特に手足や腹部や顔面)に発疹がでるものです。また、Ⅰ型と呼ばれるアレルギーであれば全身の皮膚の症状に加え、お顔が丸く腫れ上がり、首の周りも腫れ、呼吸が苦しくなるという症状が出ます。通常は救急車で救急外来へ搬送されます。患者さん自ら<自分は麻酔アレルギーです>とおっしゃるケースのほとんどの場合がストレスによる心因性の反応、疼痛性ショックや迷走神経反射や過換気症候群と呼ばれる病態です。当科の歯科医師は問診から、麻酔アレルギーの真偽を判断しますが、本当に麻酔アレルギーが疑われる場合にはブリックテスト、皮内試験、リンパ球幼若化試験やリンパ球刺激試験といった検査、パッチテストといった試験を関連医科診療科に検査の依頼をいたしますがそれらの有用性は低く、確定診断が必要な場合は大学病院などの高度先進医療機関にて1~2日の入院下で検査が必要です。
いずれにせよ、患者さん御自身が十分に納得していただけるまで歯科麻酔を使用した歯科治療は行いません。

7.気を失った経験(疼痛性ショックや迷走神経反射)がある方へ

過去の歯科治療でこのような経験がおありなら大変残念な事です。なぜなら原因のほとんどは歯科医師や歯科衛生士の対応にあるからです。患者さんご自身が悪いのではありません。歯科の麻酔や治療が全く痛くなく、恐怖心もなく安心して受ける事ができる内容であればそのような事態にはならないからです。
当科では麻酔注射の前に必ず表面麻酔のゼリーを使用しますし、痛くないよう、ゆっくりと時間をかけて麻酔を行います。
また、麻酔が十分に効いていないまま処置を継続する事は絶対にありません。ご安心下さい。万が一、不快症状を生じた場合には直ちに酸素吸入を開始すると共に、鎮静剤、鎮痛剤の与薬、輸液管理により全身管理を行います。

8.肝臓病の患者さまへ

当科では、ウィルス性肝炎、アルコール性肝障害、薬物性肝障害、自己免疫性肝障害、肝硬変、肝臓癌の患者さまの歯科治療を行います。
日本ではウイルス性による肝炎が80%を占めますが、それ以外の原因による肝炎も種類が多いので、スタッフに具体的な肝炎の種類を正確に伝えて頂けると助かります。
ウイルス性肝炎の場合、日本では特にA、B、C型が多いです。 当科では問題なく全ての歯科治療が行えます。安心して受診下さい。患者さんのプライバシーは必ず守られますのでご安心下さい。病状によっては肝臓の機能を評価する検査数値が低いために、血が止まりにくかったり、感染しやすくなっている状態もあります。
具体的には血小板数、コリンエステラーゼ、アルブミン、プロトロンビン時間などで肝機能を調べつつ、それ以外の検査数値から全身の状態を評価した上で歯科治療を立案します。
薬剤の投与は肝毒性の少ないペニシリン系やセフェム系を中心に計画します。
病状によっては、医科の医療機関と連携し、FFP(新鮮凍結人血漿)や血小板の輸血をした上で歯科治療を行っています。

9.エイズ(AIDS)の方へ

当科では、CD4陽性細胞数検査の結果、すなわち、CD4数により現在の病態把握を行います。正常ならば800〜1200個/μlですが、HIVに感染すると徐々に低下してゆきます。
500個/μl程度以上では通常の歯科治療が行えます。安心して受診下さい。患者さんのプライバシーは必ず守られますのでご安心下さい。患者さんが病名や病状を隠す事は、患者さん、術者双方にとって好ましい事ではありません。当科の歯科医師はエイズ(AIDS)の病態に関しての講習会・学会に何度も参加し病状の把握基準も熟知しておりますので、ご安心下さい。まずは、私どもを信頼していただき、患者さまから正確な事実を伝えていただく事が結果としてお互いに有益な結果になると考えています。

10.ぜんそくのある方へ

ぜんそくのある方は体調が良い日に無理のない内容の範囲で治療を進める事が大切です。発作の起こる時期と無症状の時期が繰り返すので、コンディションの良い時期に予約を取って下さい。また、発作の起こりやすい時間帯を避けて予約時間をとって下さい。
普段使用している携帯用吸入薬は持参して下さい。長期的にステロイドを投与されている患者さまは、感染を起こしやすいので必ず歯科医師にお申し出下さい。歯科治療後に喘息発作が起こる原因として、治療後に投与する消炎鎮痛剤(痛み止め)、抗生物質などで喘息発作が起こることがあります。また、歯科材料の中にも、喘息症状を引き起こすものがあり、例えば歯科用のレジンという合成樹脂の中に、喘息を引き起こす物質があります。過去に歯科治療後に喘息発作が起こったり、症状が悪化した経験がおありであれば、私たち歯科スタッフになるべく具体的にお話下さい。
当科で通常使用するアドレナリンを含む局所麻酔薬は気管支の平滑筋を弛緩させるので問題ありません。ただし、気管支拡張作用のあるプロカテール(商品名:メプチン)などを服用中の方に関しては、アドレナリンを含む局所麻酔薬との併用は禁忌なので、別の麻酔薬を使用しますので必ずお申し出下さい。
当科では酸素吸入設備、SPO2計測器、生体情報モニター、輸液設備を完備し、ぜんそく発作・呼吸器不全等の不測の事態に対して病状に応じた全身管理を行います。安心して受診下さい。

11.自閉症の方、自閉症のお子様をもつ保護者の方へ

まずは、障害の特性やお子様の現状をきちんと伝えて頂けると助かります。待ち時間がないように、診療開始の一番最初の診療ワクに予め予約を取っていただけると他の患者さんも少ないため初診時からスムーズに導入できます。
始めは、診察室に入る事もできないかもしれません。診察椅子の周りを動き回る事も初めは仕方ありません。できる事から一つ一つの課題をイラストや絵を用いてトレーニングしながら徐々に歯科治療ができるようにしてゆきます。
初日から、歯科治療ができないからといって焦らないで、まずは、イラストと練習を一致させる事から始めましょう。
痛くて、緊急処置がどうしても必要な場合には初日から痛みをとる治療を始めます。治療の過程を一つ一つ絵に描いて説明するなど工夫して進めます。

12.てんかん・脳性麻痺の方へ

てんかんをお持ちの方の特徴は、発作時の転倒や、異常な噛みしめなどが起きる事です。治療中に転倒やけいれんなどの不随意運動が起こった際は、患者さんが怪我をしないよう安全を確保します。発生頻度や、発作が起こりやすい状況、対処方法などを知るために、かかりつけの病院と密に連携をとり治療方針を立案します。万が一発作が起こった場合には鎮静剤等で適切に管理しますのでご安心下さい。
脳性麻痺の患者さまは、脳の損傷部位によってタイプが異なりますが、体の硬直や不随意運動を伴うことがあります。
患者さんそれぞれの状態に合わせた適切な治療を行い、清潔な口腔内環境を保つための支援を行います。

13.統合失調症の方・統合失調症のご家族の方へ

当科では原則として全ての歯科治療が行えます。安心して受診下さい。その日の状態によって処置内容を考えながら治療を進めます。患者さまとの十分な対話を心掛け、訴えをよく聴きます。患者さまにわかりやすい説明(簡潔な説明・必要最小限で)を行います。 患者さまが納得した上での治療に徹します。(患者さまの望まないことは行いません) 患者さまに不安を抱かさないよう優しく、心のこもった対応を行います。
初回は診察、検査、投薬のみとし、いきなり歯を削るなどの治療は行いません。ゆっくりした治療を心がけます。患者との対話を心がけ、<納得>に基づく歯科治療に徹します。

14.認知症の方・認知症のご家族の方へ

基本的には全ての歯科治療が行えますが、攻撃的で不安定な状況の際には、最低限の対症療法で済ませる場合もございます。
認知症の方は明確な訴えを発することができない分、周囲が細かい部分まで配慮しなければなりません。
認知症が進んだ状態から義歯を装着するのには激しい抵抗を示すことがあります。
適切な咬合を保つのは人間の生活にとって非常に重要なことであるので、義歯に抵抗があろうともなるべく義歯に慣れることが重要ですが、義歯に慣れていなかった方が認知症になった段階で義歯に慣れる確率は非常に低いです。
特に、往診などで家族の方の希望で義歯を製作する場合には、義歯について過大な期待は出来ない故のご家族の理解が必要です。経験上「すんなりと慣れる」「全く慣れない」の両極端の方が多いです。
アルツハイマー病では後期、脳血管性認知症おいてはいずれの期間でも摂食・嚥下障害が生じる可能性があります、それに対応したリハビリ・食事の対応、口腔清掃が必要です。「誤嚥性肺炎」は嚥下機能の低下に伴う肺炎なのですが、不顕性誤嚥(微小な誤嚥)、舌や咽頭、喉頭の機能障害による明確な誤嚥、胃内容物の逆流による誤嚥などが原因です。
不顕性誤嚥については認知症の有無に関わらず多くの高齢者の方に生じています。
なおさら認知症の方では生じやすいと考えると、原因である歯肉や舌、咽頭に付着している肺炎原因菌の除去は、誤嚥性肺炎の予防に大きく寄与します。
したがって、当科では、認知症の方であっても歯周基本検査をした上での歯周基本治療とその後の継続したメインテナンスに力を入れています。

15.悪性腫瘍の方へ

基本的には全ての歯科治療が行えますが、病態、病状に配慮した上で適切な処置方針を考えます。化学療法や放射線療法による骨髄抑制により、白血球や血小板が低下している病態もあり、歯を抜いたり、根の治療をしたり、外科的な処置が必要な場合には、全身の病態を一時的に是正した上で歯科治療を行う場合もあります。

16.膠原病やSLEなどの自己免疫疾患をお持ちの方へ

多くはステロイドを服用されている事と思います。
ご自身の病名、ステロイドの服用量を正確に確認してから当科を受診して下さい。
歯医者にかかるからと言って自分の判断で減量や増量をしないで下さい。
ステロイドは副作用として「易感染性」があります。分かりやすく言うと体が「バイキンに感染しやすい状態」になっています。口腔内は歯垢などのバイキンの巣窟なのでステロイド服用中の患者様は注意が必要です。
また、傷口がとても治りにくいため、特に口の外科処置(抜歯など)は注意が必要です。
服用しているステロイドの量にもよりますが、10mg/day以上なら注意が特に必要です。
また、「膠原病」の方の場合、抜歯などの外科手術を行うとストレスから病状が悪化することがあります。しかがって、ステロイドを増量した状態で外科処置を行わないといけない場合があります。内科主治医と連携治療を行います。
ステロイドを増量すると一時的に丸顔=満月様顔貌になりますが、減量すると普通に戻ります。
当科では現在、原則としてステロイドカバーはいたしておりません。通常の服用量を服用したまま受診下さい。

17.慢性呼吸不全の患者様へ

肺気腫や慢性気管支炎などで、咳、痰、呼吸困難などの症状が主体です。当診療所では生体情報モニターを使用し、経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)のチェックをしながら診察を行います。90%が目安ですが、平常の病態により目標値は異なります。
同時に、血圧、呼吸数、体温等を経時的に測定しながら歯科治療を行いますが、呼吸困難に関しては当科の設備に切り替え、酸素吸入等の処置を行います。

18.狭心症・心筋梗塞の既往のある方へ

主治医の先生に紹介状を書いて頂いた上で当科を受診して下さい。単純に、狭心症の気がある、心筋梗塞になった事があるという曖昧な情報はほとんど役に立ちません。改めて歯科から医科の主治医に照会状を書いてお返事を頂いた上で、治療方針をたてなければなりません。これでは、患者さま、私ども双方にとって時間のムダです。必ず、主治医の先生から紹介状を頂く事に加え、患者さんご自身の病態す関する正確な理解が必要です。
狭心症と心筋梗塞では、発症過程がまったく異なります。狭心症とは、冠血流の減少による可逆性の虚血状態(一時的な酸素不足)であり、回復可能な疾患です。
一方、心筋梗塞は冠動脈の閉塞による冠血流停止状態であり。血栓などで、冠動脈が完全に閉塞し、その先の心筋が死んでしまい、回復不可能な疾患です。従来は、これらの疾患については、冠動脈の粥状硬化、プラークの増大により、冠動脈の狭窄が70~80%に達すると、安定労作性狭心症が生じ、内腔が完全閉塞すると、不安定狭心症や心筋梗塞になると考えられていました。しかし近年、このような発症過程を示すのはこれらの心疾患の15%以下であることが明らかになっています。むしろ不安定狭心症や心筋梗塞による突然死のほとんどは、冠動脈プラーク(粥腫)の破綻による血栓形成が突然、冠動脈内腔を閉塞することにより生じます。
当診療所では生体情報モニターにより、全身の循環状態の把握をした上で歯科治療を行います。問診による術前の病態把握は当然の事ですが、万が一、不快症状が生じた場合には、全身監視モニターでの監視の下、酸素吸入、ニトログリセリン、バイアスピリン等の救急薬剤の使用やペンタジンの静脈注射、さらにショック症状を呈する場合には急速輸液等による抗ショック療法を行います。

19.不整脈の既往のある方へ

不整脈には時々起こる不整脈と持続的な不整脈の2種類があります。また、不整脈には基礎心疾患がある場合と、不整脈だけで心臓の異常がない場合があります。不整脈にはたくさんの種類があるため、歯科治療上、特別な配慮が必要のない不整脈と全身監視モニター装着下にて慎重に管理しながらでないといけない不整脈があります。したがって、一概に不整脈があるから歯科治療が心配と言われても判断のしようがありません。不整脈で主治医の先生に受診中の方や過去に受診歴のある不整脈をお持ちの方は必ず歯科治療の是非に関して主治医の先生の指示をもらってから歯科の受診をお願いいたします。

20.心臓手術後の患者さまへ

私達が最も配慮している事は、感染性心内膜炎の予防と歯科治療後の出血対策です。血管に細菌が多数入り込む可能性のある処置内容の前には前日から適切な抗菌薬(ペニシリン系抗菌薬)を服用する必要があります。
危険性の高い処置内容として、抜歯 、外科的処置、歯石除去、歯根管の治療などがあります。
一般的にう歯充填、歯科修復治療、局所麻酔、歯型の採得などの処置に対しては、抗生物質の術前投与を必要としないと言われています。
歯科治療前に抗生物質の投与を受ける必要があるかどうか不明な場合は、歯科口腔外科に精通した歯科医師に適切なアドバイスを受けることが必要です。
感染性心内膜炎の可能性が少しでも考えられる場合には、手術後の心臓が回復する3ヵ月後くらいを目処に治療を開始する事をお勧めします。
患者さまご自身から歯科受診の際には必ず歯科医師に病状、手術の内容、服薬内容に関して情報提供をお願いいたします。

21.胃、十二指腸潰瘍の患者さまへ

病名、主治医の先生への受診状況、服薬内容に関してまずはスタッフにお知らせ下さい。
単に胃腸が弱いと漠然と言われても医学的に判断のしようがありませんし、科学的な対応も期待できません。
治療前後に処方するお薬が胃腸障害の問題を起こす可能性があります。副作用を防止するためには、服用時間をなるべく食後にしてください。食後以外に飲まれる時は、十分な量の水で服用するようにしてください。酸性の解熱鎮痛剤は胃に負担をかけるので不適です。当科では鎮痛剤を使用する場合にはアセトアミノフェンか、塩基性の解熱鎮痛剤を処方します。また、胃薬やプロドラッグと言って胃腸障害が少ないお薬を用意していますが、患者さまの正確な病態を把握した上で、科学的な処方を行うという姿勢を大原則としています。

22.甲状腺の病気をお持ちの方へ

甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症がありますが、亢進症の方が多いです。
局所麻酔をする際には、血圧と脈拍のチェックを行います。
アドレナリン(血管収縮剤)含有の局所麻酔剤の通常使用量は特に問題ありません。
コントロール不良の方の処置は、応急処置に留め、麻酔はアドレナリン(血管収縮剤)を含まないものを使用し、短時間の治療を心がけます。
FT3、FT4、TSHが正常値の患者さまに関しては当科で問題なく治療が可能ですが、正常値から大きく外れている場合にはいきなり処置に入らず、主治医の先生と事前に連携をとった上で治療方針を立ててゆきます。FT3(サイロキシン):正常値2.5~5.5pg/ml(亢進症では上昇します)、FT4(トリヨードサイロキシン):正常値0.8~1.9ng/ml(亢進症では上昇します)、TSH(甲状腺刺激ホルモン):正常値0.4~5.3μU/ml(亢進症では低下します)を参考に判断しますが、出来ればかかりつけの主治医の先生からの紹介状を頂いてからの受診をお願いいたします。

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