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「がん」の話
 本年4月17日、岡山で開催された日本泌尿器科学会で、当院の前立腺癌の臨床検討を行いました。ほぼ、同じ内容をこの5月論文発表させていただいたのですが、今回は学会で使ったポスターを使いながら、前立腺癌から身を守るために皆様方にお願いしたいことを解説させてください。


 この発表の中で“PSA”と言う用語があちこちに出てきます。PSAとは“Prostata Specific Antigen:前立腺特異抗原”の英語の略号です。前立腺から分泌されている糖蛋白ですが、採血をすることによりPSA値を測定することができます。前立腺癌に罹るとこの数値が高くなります。“PSA検診”という言葉も随所に現れます。これはいわゆる前立腺癌の集団検診のことです。もともと20年以上前に、前立腺癌検診はお尻から指を挿入して前立腺を触る触診のみの方法で開始されました。しかし、現在はPSAを採血して前立腺癌の有無を判定する方法が主流です。これを“PSA検診”あるいは“PSA単独前立腺癌検診”と申します。ポスター中に記載しましたが、日本の厚労省はPSA検診の有用性を認めていません。しかし、世界で同じ意見を表明しているのは日本とニュージーランドのみです。我々日本の泌尿器科医の目指すところは厚労省の頭の硬い役人の見解を覆すことです。そのための一つの基本データを皆様にお示しすることがこの発表の目的とお考えください。


 “PSAスクリーニング”というのもほぼ“PSA検診”と同じ意味とお考えください。ただし、PSAの測定は集団検診以外でもできます。人間ドックがその代表です。最寄りのかかりつけ医でも測定できます。そのようにPSA検診をもっと広く捉えた言葉が“PSAスクリーニング”であると考えてください。PSAの測定経緯で“自らPSA検査を希望し当科で測定”という方々の数を記載しました。検診やドック以外でも簡単に測定できるのが特徴です。


 “臨床病期”という言葉が出てきます。一般に、どんな癌でも進み具合を4段階に分けて表します。その段階のことです。前立腺癌の場合、病期Aは前立腺肥大症の手術標本中に偶然見つかった早期癌、病期Bは前立腺の中に留まっている早期癌、病期Cは前立腺からはみ出た大きな癌、病期Dは既に転移してしまった進行癌となります。


 1987年は当院に泌尿器科が常勤となった年です。1999年ごろから発見者数が明らかに増加し始めました。特にこの年は沼田市と昭和村でPSA検診が開始されたのが要因のようです。その後、他の地域でも検診が続々と開始されました。今回はお示ししませんが、2008年は川場村でもPSA検診が始まり、64名もの新規発見者数を記録しております。


 発見された癌について年別に臨床病期の割合を示しました。1998年以前は発見されたときにはすでに転移進行癌の状況の方が多かったのですが、PSA検診が広がりだした1999年ごろから転移癌の割合が減ってきました。逆に治すことの可能な早期癌の割合が増えています。最新の研究では転移癌の割合が10%以下になるとその地域の前立腺癌死亡率は減少するといわれています。ご覧のように最近は転移癌の割合が10%に迫りつつあります。


 前立腺癌が発見された年齢分布です。もともと前立腺癌は高齢者に多い癌です。この検討はスクリーニングで発見された方々とそうでない方々の発見時の平均年齢を比較しています。スクリーニングで発見された方々のほうが1.7歳若い傾向にありました。


 PSAスクリーニングの有無と前立腺癌の進行度の割合がどのように違うかというのを示した表です。スクリーニングで発見された癌は早期癌である病期Bが多く、進行癌である病期Dが少ないという結果が重要です。“有意差”とはいわゆる「統計学的に明らかな違いがある」ことをしめす指標ですが、病期B、病期Dで有意差がありました。なお、病期Aでも有意差があったのですが病期Aは前立腺肥大症の診断の元で、前立腺肥大症の手術を行ったら偶然みつかった癌ですので、スクリーニングとはあまり関係のない癌と思ってください。


 “全生存率”とは、死亡原因に関係なく100人中何人が生きているかという割合です。例えば、「5年後の全生存率が60%」は、5年後に100人中60人生きているという意味です。左のグラフが1999年以降に発見された前立腺癌全体の全生存率で、右のグラフがスクリーングで発見された癌とそうでない癌との全生存率の比較です。たとえばスクリーニングで発見された癌では3年後の生存率が95.5%で、スクリーニング以外に発見された癌では81.4%です。二つの群の間には3年で14.1%の差が認められます(スクリーニングで発見された前立腺癌は早期癌が多いため、発見3年後は100人中95.5人が生きていて、スクリーニング以外で発見された前立腺癌は進行癌が多いため、3年後に100人中81.4人生きていた、つまりスクリーニングで見つかった前立腺癌は、それ以外の方法で見つかった癌の人より早期癌の比率が高いため、3年後14.1人多く生きていた、ということです。)。同じように計算するとスクリーニングで発見された癌のほうが3年、5年、8年の順に14.1%、21.0%、23.9%だけ全生存率が上回ったことになります。(8年後では、100人中23.9人の差が出るということです。)
  ※1 “n=   ”という記載がところどころに出てきます。これは、該当する患者さんの数を表しています。
  ※2 「全生存率」とは、死因が決まっていません。交通事故で亡くなってもこの生存率に該当します。前立腺癌が死因であると限定したい場合は、次の「疾患特異的生存率」を当てはめます。


 “疾患特異的生存率”とは、死因を前立腺癌に限定し100人中何人が生きているかという割合です。たとえば「前立腺癌の5年後の疾患特異的生存率が65%」とは、前立腺癌に罹ってから(発見されてから)、5年後に100人中65人は生きているが35人は前立腺癌で亡くなるという意味です。左のグラフが1999年以降に発見された前立腺癌全体の疾患特異的生存率で、右のグラフがスクリーングで発見された癌とそうでない癌との疾患特異的生存率の比較です。スクリーニングで発見された癌のほうが3年、5年、8年の順に8.8%、10.8%、16.7%だけ疾患特異的生存率が上回っています。前立腺癌は経過の長い癌ですから10年後となるとさらに大きな差が出ると考えられています。今回の検討によると、全生存率、疾患特異的生存率に関してスクリーングで発見された癌のほうが良好な生存率を得られたことがわかります。
  ※1 “p<0.0001(by Logrank test)”の示す意味は、この結果は統計学的にも明らかに有意差が見られたということで、非常に重要な結果とご理解ください。


 PSAスクリーニングを受けることにより早期のうちに前立腺癌を発見することができます。同じ前立腺癌であってもスクリーニングでみつかった方のほうが、年数が3年、5年、8年と経過するに従い8.8%、10.8%、16.7%と前立腺癌で亡くならない確率に差が生じてきます。PSAは検診でも、人間ドックでも、さらに最寄りのかかりつけ医でも測定してもらうことができます。ためらうことなく調べてみてください。