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早期胃癌に対する内視鏡治療 −ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)について−

利根中央病院・内科  萩原 聡
<はじめに>
胃癌を抗癌剤治療、放射線治療で完治することは困難であり、胃癌に対する治療は手術が原則になります。その中でも早期胃癌の治療は外科手術と内視鏡手術があります。内視鏡手術(治療)とは胃カメラを使った治療であり、お腹を切らずに治療が可能です。今回、内視鏡治療の中でも最近の治療である内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の話をします。
<早期胃癌とは>
胃壁は厚さ7〜8mmの薄い壁ですが、いくつかの層に分かれています。内側から粘膜層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下組織、漿膜です。胃癌は粘膜層から発生し癌が進行するにしたがって胃壁の深い層へ浸潤していきます。早期胃癌とは癌の浸潤が粘膜下層までにとどまる癌と定義されます(図1)

(図1)
<早期胃癌に対する内視鏡治療の適応>
すべての早期胃癌に対して胃カメラを使った内視鏡治療が適応になるわけではありません。胃癌はリンパ節転移を起こしやすい癌であり、リンパ節転移があるとリンパ節までは内視鏡では取れません。したがって内視鏡治療の適応の原則は「病変がリンパ節転移の可能性がほとんどない」ことになります。胃癌治療ガイドラインにはリンパ節転移がほとんどない具体的な適応条件として分化型腺癌(癌細胞の形や並び方が正常な胃の粘膜の構造を残しているもの)、粘膜層にとどまる癌、潰瘍形成なし、2cm以下と示されています。しかし、国立癌センター中央病院、癌研究会付属病院における早期胃癌手術症例の検討から、それ以外にも2cm以上、潰瘍形成あり、粘膜下層浸潤あり、などの病変の中にはリンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられるものもあり、内視鏡手術は適応拡大の傾向にあります(図2)

(図2)
<早期胃癌の内視鏡治療>
従来の早期胃癌に対する内視鏡治療は内視鏡的粘膜切除術(EMR)といわれる治療が主流でした。この方法は液体を病変の粘膜下層に注入し、病変を把持カンシで持ち上げながらスネアと呼ばれる金属の輪っかを病変の基部に引っ掛け、高周波電流で切除する方法です(図3)。一方、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、粘膜下層に液体を注入するまではEMRと同様ですが、電気メスを使って病変周囲の粘膜を粘膜下層までの深さで全周性に切開し、さらに病変部を粘膜下層で切り剥がしてゆく方法です(図3)

(図3)

EMRでは切除範囲がスネアのかかる範囲に依存しているため、癌の大きさや、部位によっては一括切除が困難であるのに対し、ESDでは切除範囲が自由に設定できるため大きな病変でも理論的には一括切除が可能です(図4)

(図4)

早期胃癌に対する内視鏡治療において、局所再発やリンパ節転移のない治癒を得るためには、リンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる病変を遺残なく切除し、かつ切除した病変の病理組織学的検索を正確に行い、根治性を評価する必要があります。そのためには病変を一括完全切除することが大変重要なのです。一方ESDの短所としては、手技の習熟の難易度が高い、治療時間が長い等があげられます(図5)

(図5)
<実際の症例提示>

(図6)

(図6-a)やや白っぽく隆起している部位が癌です。(図6-b)癌の周りに切除範囲を示すマーキングをします。(図6-c)切除直後です。切除部位が潰瘍になっています。(図6-d)切除標本です。赤い印の部位が癌細胞を認める部です。粘膜内の癌で完全に取りきれています。(図6-e)治療3ヶ月後です。治療直後に認めた潰瘍も完全に治癒しています。


(図7)

(図7-a)隆起している部位が癌です。黒く見えているのは胃カメラです。カメラを胃の中で反転して病変を観察しています。食道と胃の接合部付近の癌です。(図7-b)癌の周りに切除範囲を示すマーキングをします。(図7-c)粘膜下層の深さに全周性に切開をしたところです。(図7-d)切除直後です。切除部位が潰瘍になっています。(図7-e)切除標本です。赤い印の部位が癌細胞を認める部です。粘膜内の癌で完全に取りきれています。

次に実際の治療手技の動画を提示します。電気メスを使って病変周囲の粘膜を粘膜下層までの深さで全周性に切開し、さらに病変部を粘膜下層で切り剥がしてゆく過程です。

胃癌の内視鏡治療の映像はこちら
<当院のESD治療成績>

(図8)

当院でのESDの成績を過去のEMR症例と比較して示します(図8)。完全一括切除率(病変が一括で切除され、かつ水平、深部方向ともに癌が取りきれている率)はEMRが43.5%に対しESDは100%でした。治癒切除率(完全一括切除かつ、脈管浸潤等がなく内視鏡治療のみで治癒と判定できる率)はEMRが41.3%に対しESDは89.4%でした。遺残再発率(癌が残っていて再発する率)はEMRが21.7%に対しESDは0%でした。
次に当院での治療に伴う偶発症、治療時間、入院期間についてEMRとESDを比較して示します
(図9)

(図9)

胃癌の内視鏡治療における合併症に術後の出血、穿孔(胃の壁に穴があく)があります。一般にはESDの方が偶発症の発生率は高いとされていますが、当院において現時点では出血、穿孔の偶発症は認めておりません。入院期間は平均11日間であり、治療時間は病変の大きさ、存在部位にもよりますが、ESDではEMRより長時間を要します。
当院においてESDの治療成績は完全一括切除率、治癒切除率、遺残再発率ともに良好であり、偶発症の発生率もEMRと同等でした。
<さいごに>
早期胃癌に対するESDの話をしました。内視鏡治療の最大のメリットはお腹を切らずに、胃がそのまま残ることです。内視鏡治療で癌を治療するには胃癌を早期発見する必要があります。早期胃癌はほとんど症状がありません。癌の早期発見のために胃の定期検査をすることをお勧めします。
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