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「がん」の話・資料集(過去の統計・資料・記事など)
肝細胞癌に対する治療
2007.12.3
利根中央病院・内科(肝臓外来):萩原 聡
 今回は肝細胞癌に対するラジオ波焼灼療法(RFA)の話をしますが、先に肝細胞癌について、次にラジオ波焼灼療法以外の治療についても話をします。
1.肝細胞癌とは
 肝細胞癌は肝臓にできる癌で、多くの場合はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎〜肝硬変を患っている患者さんに発症します。わが国の肝硬変の約7割はC型肝炎ウイルスが原因であり、したがって、肝細胞癌の原因もC型肝炎ウイルスが多くなります。
 図1は群馬県内の肝硬変患者さん738人の成因の内訳を示したものです。514人(約70%)の患者さんはC型肝炎ウイルスが肝硬変の原因です。また、肝炎ウイルスを持っている人全員が発癌するわけではなく、慢性肝炎でも正常に近い肝臓に癌はできにくく、肝硬変に移行するにしたがってその発生頻度は増加し、C型肝硬変では年率7%の患者さんに発癌するといわれています(図2)。肝硬変は基本的には長く付き合っていかなければならない病気であり、肝硬変である期間が長ければ長いほど、癌になる危険性も累積していきます。また、癌の治療後の再発率が高いのも肝細胞癌の特徴です。治療後1年間に再発する確率は30%ともいわれています(図2)。

<図1>


<図2>

2.肝細胞癌の治療
 肝細胞癌の多くは肝硬変という肝機能が低下した肝臓を発生母地としているため、その治療法は肝硬変の程度により変わってきます。肝臓は生命の維持に必要な臓器であるため、肝臓を全部取り除いてしまうことは出来ませんし、治療後に残った肝臓がきちんと働かなければなりません。例えば、同じ2cmの肝細胞癌が、軽い(正常な肝臓に近い)肝硬変の患者さんと重い(肝機能が非常に低下した)肝硬変の患者さんに発生したとします。軽い肝硬変の患者さんでは肝細胞癌のある区域を切り取る手術が可能ですが、重い肝硬変の患者さんでは手術後残った肝臓が機能不全に陥るため切除ができないこともあります。したがって、肝細胞癌の治療は常に背景にある肝機能の状態(肝硬変の程度)を考慮しなければなりません(図3)。

<図3>


<図4>


 図4に肝癌診療ガイドラインによる肝癌治療の指針を示します。肝障害度とは肝硬変の程度の指標であり、腹水、黄疸の程度、血液検査の数値をもとに決定されます。簡単にいうと、肝障害度Aは軽い肝硬変であり、ほとんど症状はありませんし、Cは重い肝硬変で腹水や黄疸を認めます。Bはその中間ということになります。
 肝障害度A、Bの患者さんで腫瘍が1個の場合、開腹手術による肝切除または局所療法が選択されます。局所療法には経皮的エタノール注入療法(PEIT)、マイクロ波凝固療法(MCT)、ラジオ波焼灼療法(RFA)がありますが、近年ではラジオ波焼灼療法が、その主流になってきました。ラジオ波焼灼療法については今回の話の主題であり詳細については後述します。肝障害度A、Bの患者さんで腫瘍数3個以内、腫瘍径3cm以内では、ラジオ波焼灼療法、肝切除が選択され、3cm以上では大きさ的にラジオ波焼灼療法だけでは治療しきれないことが多く、可能であれば肝切除、切除不能であれば経カテーテル的肝動脈塞栓術が選択されます。肝細胞癌は肝動脈から栄養を供給されているため、足の付け根の動脈から挿入されたカテーテルを通じて肝臓の癌を栄養する血管を塞栓し(塞ぎ)、栄養補給や酸素を絶って癌を壊死させる治療が肝動脈塞栓術です。治療は比較的簡便で患者さんに与える負担も少ない治療法である反面、局所再発しやすく、根治(完全に治すこと)になりにくい治療法でもあります。肝障害度A、Bの患者さんでも腫瘍数が4個以上になると根治は難しく、経カテーテル的肝動脈塞栓術もしくは、リザーバーカテーテルを体内に留置し肝動脈に直接抗癌剤を投与するリザーバー動注化学療法が選択されます。全身に抗癌剤を投与するより少ない量の抗癌剤で済むため副作用が少なく、全身の抗癌剤治療より効果も期待できます。ただ、治療効果には限界があり、以前県内92人の患者さんのリザーバー動注化学療法の奏効率(癌が50%以上縮小する確率)を調べたところ25%でした。したがって、このような患者さんに対してのより効果の高い治療法の確立が期待されています。
 肝障害度Cになるともともと肝機能不良の状態であり、さらに癌に対する治療自体が肝機能を悪化させてむしろ余命を短くしてしまう可能性が高くなるため、一般的には癌に対する治療はしないことになります。癌が3個以内、腫瘍径3cm以下もしくは1個でも腫瘍径5cm以内なら、機能不全に陥った肝臓そのものを交換してしまう肝移植もひとつの方法となります。肝移植には脳死肝移植と生体肝移植がありますが、日本では脳死肝移植のドナー(肝臓の提供者)が絶対的に不足しており、肉親の誰かがドナーとなる生体肝移植が主流です。前述の基準(癌が3個以内、腫瘍径3cm以下もしくは1個でも腫瘍径5cm以内)以外の肝障害度Cの患者さんは、肝移植を行っても術後再発の可能性が高いとされ、保険診療での肝移植の適応外とされています。一方、同基準を超えた患者さんの中にも良好な予後を期待できる患者さんが存在することもあり、そのような患者さんを術前に決定できる新たな選択基準が求められているのも現状です。
3.ラジオ波焼灼療法
 今回の話の本題になります。前にも触れたように肝細胞癌は肝硬変という機能が低下した肝臓に発生する癌であり、また再発の可能性が高く繰り返しの治療が必要になるという特徴を持っています。そのため、治療はなるべく残された肝臓の機能が保たれ、なおかつ確実に肝細胞癌を退治する治療が理想です。開腹手術による肝切除は、癌を含め周囲の肝臓の一定の領域を切り取る確実な治療ですが、肝機能が低下した肝硬変の患者さんにとっては負担の大きい治療になります。ラジオ波焼灼療法は、超音波(エコー)を見ながら皮膚を通してボールペンの銀色の部分位の太さの針を肝臓内の癌の部分まで進め、そこで電気を流すことによって癌が焼け壊死する治療方法です。壊死範囲は機械によって異なりますが直径約3cmの球形に焼ける針が汎用されています。最大径5cmの焼灼が可能な針もあります。肝切除と違い癌の部分だけを選択的に壊死させるため、残された正常な肝臓に与えるダメージが少なく、全身麻酔や開腹を必要としないため術後の全身状態の回復も速やかです。反面、癌の周りに少し(5mm程度)余裕を持って焼かないと癌の焼き残しをつくってしまう可能性もあります。前の項目(2.肝細胞癌の治療)で説明したガイドラインの中でラジオ波焼灼療法の適応が3cm以下になっていたのは、それ以上の大きさの癌になると治療の工夫をしないと焼き残しの可能性が高くなるからです。
 ラジオ波焼灼療法の針には単針のものと、針が傘状に展開するタイプのものがあります(図5)。単針のものは針の中を冷却水が還流して先端の通電部分(癌を焼く部分)の温度が上昇し過ぎないように設計されています。傘状に展開するタイプでは一本一本の針先が通電されることによって球状の焼灼野が得られます。多くの施設では全身麻酔は用いずに鎮静剤・鎮痛剤を使い、超音波を用いて(エコーガイド下)皮膚を通して肝臓に針を刺します(穿刺)。図6では、エコーを見ながらラジオ波の針を癌に至らせる様子を示しました。矢印の部が癌で、白く線状に見えているのがラジオ波の針です。焼灼を始めるとエコー上焼けている針先の部分から白い泡状のものが発生します。皮膚の表面また肝臓の表面は痛みを感じるため、局所の麻酔は行います。

<図5>


<図6>


 癌の発生部位によってはエコーで癌が観察できないような場合もあり、また、癌が他の臓器に接していて他の臓器も焼いてしまう危険性がある場合には、全身麻酔をかけたり、開腹した状態や腹腔鏡を用いてラジオ波焼灼療法を行うこともあります。図7に開腹下でのラジオ波焼灼療法の様子を示します。矢印の部分が癌の部分で開腹下に直接ラジオ波の針を穿刺して焼灼しています。また、癌をエコーで観察し易くするために胸や腹にわざと水を貯めて治療することもあります。針の種類によりますが、単針のものでは一回の治療時間が約12分です。癌が複数個ある場合や大きい癌の場合は複数回の穿刺焼灼が必要な場合もあります。治療中の問題としては通電中の痛みがあります。痛みに対しては術前・術中に鎮痛剤を投与することで対応しますが、痛みが強く出現する患者さんもいます。12分間の通電が終わると多くの場合は痛みも消失します。当院では治療後3〜5日後にCTで治療の効果判定を行い、問題なければ治療後1週間以内に退院となります。図8にラジオ波焼灼療法前後のCT所見の変化を示しました。矢印が癌部であり、治療後に黒くみえる部が治療により癌が壊死した部分です。

<図7>


<図8>
4.肝細胞癌の予防
 肝細胞癌のラジオ波焼灼療法を中心に話を進めてきましたが、まずは癌の予防を心がける必要があります。肝細胞癌は初期にはほぼ無症状であり、自覚症状で癌を予見することはできません。しかし、前述したように発生母地がウイルス性肝炎や肝硬変であると限定されているため、それらに罹患している患者さんは定期的にエコーやCTによる検査を受けることによって肝細胞癌の早期発見が可能になります。早期発見ができればラジオ波焼灼療法や肝切除などの根治治療が可能になります。
 また、慢性肝炎から肝硬変になるにしたがって癌の危険性が高くなることから慢性肝炎の治療も重要になります。慢性肝炎でも肝臓の炎症の程度の指標であるALT(GPT)を低く保つことで肝硬変、肝細胞癌への進展を抑制することができます(図9)。慢性肝炎の治療方法として、C型肝炎ウイルスではペグインターフェロン・リバビリン併用療法によりウイルスを駆除することで肝炎の進行を止められます。B型肝炎ウイルスでは核酸アナログ製剤にてウイルスの複製を抑制し、肝炎を抑えることが可能になってきました。癌と同様、慢性肝炎も自覚症状がないため、B型・C型のウイルス性肝炎と診断された場合やウイルス性以外でも慢性肝炎、肝硬変と診断された場合には定期的に専門医による診察を受けることが重要となります。

<図9>
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